皇帝フリードリッヒ二世の生涯

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塩野七生、新潮社
☆☆☆
以前より、第六次十字軍を率いてオリエントへ向かいながら、戦闘は一度もしないでエルサレムを回復したフリードリッヒ2世に興味がありました。なぜなら、私が十字軍に対して持っているイメージは

 

《狂信者の群》

 

だからです。

 

第一次十字軍がエルサレムを陥落させたときに行った大量殺戮は有名な話しですし、後世に「ライオン・ハート」なんて二つ名を送られて、カッコイイ感じのするリチャード1世も捕虜にしたイスラム教徒を身代金の支払いが遅いことに激怒して、約3千人の捕虜を皆殺しにしています。(ちなみに、リチャード1世エルサレムの奪還に失敗しています)そんな、血に飢えた狂信者の群を率いてオリエントへ向かって、一度も戦闘をしなかった男に興味があったのです。

 

詳細はこの本を読んでもらうことにして、「運が良かった」につきるのではないでしょうか。もちろん、フリードリッヒ2世は才能があり、努力もする人なのですが、交渉相手に狂信的なところは全くないイスラム教徒の指導者アル・カミールを持つことができたのは幸運でした。

 

もし、アル・カミールがイスラム原理主義者だったら理を尽くして説得されてもエルサレムを譲渡するなんてことはなかったでしょう。さらに言えば、原理主義者でなくとも、アル・カミールが計算高い男であれば、あの時点でアウェー(しかも、当時はローマ法王から破門されていた)で交渉していたフリードリッヒ2世の方が不利であった訳ですから、交渉を長引かせてフリードリッヒ2世が帰国するのを待っても良かったのです。

 

政治家として優秀な二人が幸運にも出会った(二人は直接会ったことはない)ことで、その後キリスト教徒側が第七次十字軍を派兵して平和条約を一方的に破るまで、エルサレムに19年間もの平和がもたらされたことは奇跡です。

 

歴史に名を残すような優秀な軍人や政治家はたくさんいますが、その才能が直接向き合うということは希にしか起こりません。第六次十字軍で行われたことは、ハンニバルスキピオが直接対決したことに匹敵する歴史的事件だと思います。

 

その後のフリードリッヒ2世ですが中世のヨーロッパで繰り返された皇帝VSローマ法王の戦いに明け暮れます。この部分についてはヨーロッパの中世とはどんなものだったのか、フリードリッヒ2世の生涯を通じて眺めると良いでしょう。

 

余談になりますが、私は古代にはアレキサンダーやカエサルのような天才的な軍人を輩出したヨーロッパで中世になるとそういった人物が皆無になってしまうのを不思議に思っていました。その答えを塩野さんがこの本の中で明かされていて、「なるほど!」と思わされました。

 

フリードリッヒ2世は優秀な政治家です。単なる平和主義者ではないので、効果が見込めるので有れば軍事力も躊躇なく行使します。無血十字軍だけに注目して、読まれるとガッカリするかもしれません。また、アレキサンダーがやってみせたような目が覚めるような軍事的勝利ということを期待される方にもオススメできません。ですが、政治に興味がある方には知的好奇心を満足させる本だと思います。