村山早紀、PHP研究所
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はっきりと書いてあるわけではありませんが、地方の県庁所在地にある大型書店から物語が始まります。
その本屋さんは幸福なことに、本が好きで本屋さんで働くことを選んだ人だけで運営されています。皆さん、お金のためというより、良い本をお客さんに届けたいという使命感から全力で働いているのです。私は、こんな職場で働くことができたら幸せだな、と思いました。
主人公は月原一整、おそらく20代後半と思われる物静かで心優しい男性です。当然ながら本が好きで、優れた本を人気が出る前に発見し、店頭で販売促進することに定評があり、業界の有名人です。
この大型書店で働き続けることができれば一整にとって一番の幸せだったのですが、お店で事件が起こり、そのとばっちりで一整は辞職を余儀なくされます。この辺りでは今の本屋さんを取り巻く逆風について詳しく書かれているので勉強になります。
本屋さんで働くことしか考えられない一整は職を失って茫然自失となるのですが、ネット上で本の情報を交換していた人たちとの繋がりが救いをもたらします。本の中では自然豊かな美しい田舎町として描写されていますが、早い話、陸の孤島みたいな不便な町の小さな本屋さんを縁があって任されることになるのです。
しかし、街の本屋さん、田舎の本屋さんと立場が変わっても、本を愛する気持ちで繋がったかつての同僚たちと協力し合って、優れた本を世に送り出すために汗を流すのです。気持ちが通じる人たちと共通の目標に向かって努力できるなんて素敵じゃありませんか。
登場人物のほとんどすべてが世の中に生きづらさを感じており、そんな人たちが協力しあって小さな幸せを守るためにがんばっているのが好印象の物語です。この物語の人たちのように、お金のためだけに働くんじゃなく、やりがいを感じて働らいて、その結果、生計も成り立てば幸せなんだけど、なかなか今の世の中にはありませんね。