伊藤たかみ、講談社
☆☆☆
東京の荻窪駅の近くにあるおんぼろアパート、《白鳩アパート》に住む3人の青年を主人公にしたモラトリアム小説です。
アパートの屋根の上には、なぜか白い旗が掲げられていて、
「アパート全体が、人生に白旗を揚げているみたい」
と言って、住人たちは気に入り、自分たちの住処を《白旗アパート》と呼んでいます。
主人公になる青年たちですが、
青年1:自称、小説家。
青年2:二浪、二留の大学6年生。
青年3:卒業間近の大学を中退し、医大受験を口実に故郷へ帰らない浪人生。
となります。
こんな3人が、お金、お洒落、女性にまったく無縁の生活を無為に送る姿を描いています。しかし、悲壮感はなくて、小金が手に入るとお酒とタバコにすぐ交換し、意識がなくなるまで3人で痛飲して楽しく暮らしています。
自分には特別な才能があり、うっかり就職なんてしたらその才能が無駄になるんじゃないか、今はその才能が何なのか自分にも分からないけど、才能が自然に開花するのを待ってみようじゃないか、とおおらかな気持ちで日々を過ごしているのです。
私は、中学、高校と卓球部に所属していて、そこで、
『私は運動神経が悪い』
と悟り、大学受験で苦労して、
『私は頭が悪い』
と悟ってからは、大それたことは考えなくなってしまいました。
この小説の主人公たちのように、地位、名誉、財力すべてなくても、自分自身を肯定的にとらえ、未来は明るいと信じて過ごすことが出来るのは、それ自体が素晴らしい才能だと思いました。私みたいにすぐペシャンコに凹んじゃう人間には、3人がまぶしく見えます。