長野まゆみ、筑摩書房
☆☆☆
この世の中には【腐女子】と呼ばれる人たちがいます。この本は、そんな方々が読むBL(ボーイズ・ラブ)本です。
文章が独特で、読者の妄想を掻き立てるため、人物や空間を描写するためにたくさんの文字を使って説明が行われます。この、紙面から伝わってくる雰囲気というか、空気感というかが楽しめない人には辛いかもしれません。
私自身は同性同士で恋愛感情を育てる物語には興味がないのですが、この本は題名や装丁からそれをうかがわせるものがなく、知らずに手にしてしまいました。
主人公は大学入学を機に地方から東京へ出て来て、一人暮らしを始めるために不動産を探します。そして、大学で紹介された男子寮へ行くと敷地内へ入るやいなや、お洒落な美青年から不意打ちでキスをされます。まぁ、そんな感じで男子大学生同士の愛の駆け引きが始まるわけです。
男子寮は贅をつくした洋館で、中へ入ると整理整頓が行き届き、清潔な空間に趣味の良い家具が備えられています。住人の男子大学生たちは皆、お洒落で気の利いた会話ができる利口な美青年ばかりです。
主人公が寮の学生に言葉で責められて泣くのですが、責めた本人がすかさず主人公を抱きしめて慰めるというのは不可解でした。これが腐女子が言うところの「攻め」と「受け」というヤツでしょうか?
また、主人公は地元に憧れの女性がいるのですが、実は生みの親で、そのことについて寮の学生が「母親と性行為するのは特別なことじゃない」なんて発言もあり、腐女子はこんな話が好きなのかなぁ、と興味を持ちました。
登場人物や、いわくありげな白い羊の置物など、謎めいたものが作中でたくさん登場するのですが、物語の最後にエピローグという章を設けて、説明口調でまとめて種明かしして終わりになります。このことは、私には作者が広げた風呂敷を畳めなくなって、「えいやっ!」と終わらせてしまったように感じられ、小説の完成度を下げたように思いました。
とにかく、男性同士の恋愛に興味がない方は読むのを止めた方が良さそうです。