鈴木るりか、小学館
☆☆☆
読み終わって、ため息が出ました。この本を中学生が書いたなんて信じられません。
絵描き、作曲家、小説家などのゼロから1を生み出す職業につくためには才能が必要です。才能がない人は、どんなに努力してもこれらの職業につくことはできません。
それでも、どんな天才でも若年のころは習作の期間があって、後世になってから評論家に
「この時期は試行錯誤していた時期ですが、作品から数年後の飛躍を感じさせます」
なんて批評を受けるものです。しかし、この小説はすでに完成されています。
この小説の中で、中学生で作家デビューした主人公と編集者が才能について話し合うシーンがあります。主人公の通う中学校の教師が自分の書いた小説をプロの編集者に渡してほしいと主人公に依頼し、それを編集者が読んで酷評したあとのシーンです。才能について的を得たことを書いているのでそのまま書き写しておきます。
・・・・・
「あの、これ、編集部に持っていってはもらえないんですか?」
「いや、もう読んだし。もう十分わかったから」
「でも、これ先生が一生懸命書いたんですけど」
「残念ながら、一生懸命書いたからってそれが評価される世界じゃないのよ。才能がない人が千作一生懸命書いたってダメなもんはダメ。逆にサラッと力を抜いて書いたものでも、良い作品ならいいの」
「でも、先生はもう二十年ぐらい、ずっと書いているんですよ」
「それも全く関係ない。二十年、三十年、書いてきました、って言われても『で?』なのよ。それじゃ出版しましょう、って話にはならないの。その部分は認められないの。プロになってもそう。作家生活三十年以上の大御所作家が初版さばけない一方で、昨日今日の新人が、ミリオンセラーを出したりする。特に小説は、文芸分野の中では一番下克上可能な世界だから。例えばその道五十年の職人さんを、半年前に入ってきたばかりの新入りが超えるのはまず不可能だけど、小説の世界ではそれが起こるの。だから恐ろしい、けど面白い。いい才能に巡り会えたと確信したときには奮い立つ」
・・・・・
【小説家になりたい】と考えるすべての若者は、まずこの本を読むべきです。才能のなんたるかが分かるはずです。
そして、私のように
「どれどれ、中学生がどれほどの小説を書いたって?」
と興味本位で読み始めた人は驚愕してください。
すごい才能が出現しました!