西加奈子、幻冬舎文庫
☆☆☆
優等生で美しい姉は素直なまま中学生になり、空気を読まない優等生であり続けたため、イジメにあうようになる。そんな姉を見て、百合は自分はあんな風になりたくないと思います。そして、百合は周囲の目を気にしながら、いつもびくびくと生きる女になるのです。
しかし、罪悪感から加害者にもなりきれない百合は周囲の目を常に気にする緊張感から心を病んでいきます。そしてついに、職場で些細な失敗を指摘されたことがきっかけになって心が壊れてしまいました。
仕事を辞めた百合は国内の離島へと旅行に出かけます。そこで出会ったバーテンの坂崎とドイツ人のマティアスとの交流を経て、再生のきっかけを掴んでいく、というお話です。
姉がイジメられる描写や、百合がイジメにあわないようにするためイジメに加担するところがリアルで、私は読んでいて辛かったのですが、共感できる部分もあって最後まで読み終えることができました。
百合はとても裕福な家庭の子女なので、32歳になる今も親からの仕送りで日当たりの良いマンションの家賃を払い、高価な物を身につけ、親の金でいとも簡単に贅沢な旅行をします。このことが、心を病んで無職になった32歳独身女の物語を暗くなりすぎないようにしています。そのため私は、この本を読んでいる間、
「お金だけじゃ幸せになれないけど、不幸を回避することは出来るよなぁ。」
と何度も思いました。
旅の効用は色々とあると思うのですが、この本で坂崎がポツリと言う台詞、
「置きに来るんです。吸収するだけじゃなくて、置いていくことも必要なのかもしれない、と思います。」
が胸に残りました。日常の生活をしていれば、忘れたいことっていっぱい体験しますよね。そんなあれこれを旅先に置いて来られれば、それだけで元が取れた気になるってもんです。私も嫌な記憶を遠くの土地に置いてくるために旅に出かけたくなりました。