瀧羽麻子、実業之日本社
☆☆☆
この本は6つの章節に別れていて、天才詩人の中埜菫(なかのすみれ)を取り巻く6人の目線で書かれています。
普通、本というのは読み進めていくと時間が経過していくものですが、一番最初の章節では菫は高校を卒業し、プロの詩人として一人暮らしをしています。しかし、最後の章節では3歳というぐあいに章節間では時間が断絶しているので、独立した話しになっていると言った方がよいつくりになっています。
天才というのは大抵、凡人には理解できないもので、菫もかろうじて社会生活を送れる程度の常識しか身につけていません。そんな菫と6人の主人公たちがある者は並んで歩き、ある者はすれ違い、ある者は交差するといった感じで登場します。
菫にはコミニケーション能力が無いので、菫から6人の主人公に直接作用することはありません。しかし、普通の人間が大人になるにつれてなくしてしまう無垢な心と言葉への異常な集中力が冬の日に日の光が人の体を温めるような影響を与えます。
登場するのは普通の人ばかりで、これといった事件も起こらず、たんたんとした日常が描かれた小説なので、退屈に思われる方もいるかもしれませんが、世の中の99%の人は普通の人なので、こういった小説も必要だと思います。
最後に、題名の《ぱりぱり》は菫の好物である乾燥いりこのことです。食べるさいにでる音から、菫の家族で「ぱりぱり」という符丁で呼ばれています。