木皿泉、河出書房新社
☆☆☆
8章からなる物語で、1章は約30分で読むことが出来ます。なので、通勤電車の中で読むのにおススメです。
テツコ(28)は9年前に結婚し、7年前に夫を病気で亡くしましたが、実家へ戻ることなく夫の父親と二人でそのまま生活を続けています。この物語は、テツコと義父と二人の周囲にいる人たちの日常を描いた物語です。
庭に大きな銀杏がある平屋の家に住むテツコと義父は、特別幸せでもなく、かと言って不幸でもありません。二人は長年連れ添った夫婦のように自然と役割分担をし、適度な距離を保ちながら、居心地よく暮らしています。
そんな二人の生活に刺激を与えるような感じで様々な知人が登場し、物語がすすんでいきます。
どの章のお話も、今も日本のどこかで同じようなことが起こっているんじゃないかと思わせるようなことばかりで、私は自然とお話の世界に入っていくことができました。ハラハラするようなことはなく、号泣することもありません。登場人物たちと一緒に
「私と同じようなことを経験し、同じように感じている人がいるんだなぁ」
と安心させてくれるお話なのです。
私は特に《夕子》という章が心に残りました。OA機器(若い人はOAが何の略か分からない人もいるのでは?)が普及しはじめた頃の事務所の雰囲気が上手に表現されていて、同じ経験をした私は
「そうそう、夕子さんが感じたことを私も感じてた!」
と強く共感しました。
日常を描いて、人を感動させるって難しいと思うんですよね。それをやってのけた、木皿さんはスゴイなぁと感心させられた本です。