吉田修一、集英社
☆☆☆
表題作「初恋温泉」を含めて、温泉を舞台にした5つのお話を集めた短編集です。
5つのお話には共通することが2つあります。
一つ目は、恋人あるいは夫婦になってから、だいぶ時がたった男女の物語だということ。そのため、盲目的に相手を好きだった時期は過去のものとなっていて、二人の間には隙間風が吹いています。
二つ目は、普通の物語は【起・承・転・結】からなっていると思うのですが、この本に集められたお話には【結】がありません。【起・承・転】までしか書かないことで、読者に結末を考えさせるつくりになっています。
恋愛っていうのは多くの場合、「この人しかいない」って始まるのですが、付き合う時間が長くなるにつれて「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうものです。そのズレが許せるものか、そうでないかで、関係を継続するか、破局を迎えるか、かわってくるのだと思います。
この物語の主人公たちがどちらを選ぶのか、あなたも一緒に考えてみませんか?