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早くに両親を亡くして、一軒家でずっと一緒に暮らしている小野寺進(33)と小野寺より子(40)のお話です。
お互いのことを思いやるあまり、不器用な言動ばかり出てしまう姉と弟を描いています。
より子も進も、
「自分が結婚をするよりも、姉(弟)が先に幸せな結婚をして欲しい」
と心から思っていて、間接的だったり、直接的だったりしながら恋の応援をするのですが、そのやり方がとても不器用で読者の心を和ませます。
姉弟の仲はとても良いのですが、小さなころからずっと一緒にいるせいで、気恥ずかしい気持ちが勝ってしまい、お互いにぶっきらぼうな態度をとってしまうのも読んでいてほのぼのとします。
物語を通して事件と呼べるのは、より子の失恋だけです。いわゆる日常系の小説です。しかし、マスコミで取り上げられる人は犯罪者か成功者だけなので、私は、
「普通の人の、普通の生活には価値がないのか?」
と、ときどき思ってしまうので、こんなお話でも小説として成立するんだと思うと自分のことを肯定してもらえたようでうれしくなります。
紹介記事の最後に、心に残った箇所を転載します。お正月により子が職場でぼんやりと考え事をするシーンです。
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歳を重ねるほど、体験できることが減ってきている。お年玉を貰うこと。お嬢さんと呼ばれること。叱られること。呼び捨てにされること。面と向かって年齢を聞かれること。そして、誰かを想い、想われること。自分の中で諦めなくてはいけないことが増えていく。それは、肉体の衰えだけでなく、自分という存在が何が出来て何ができないかを知ってしまったからだと思う。自分の身の丈を知るということはひどく残酷だ。だが、生きていく中で容赦なく気付かされてしまう。
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こんなより子のことが気になったら、読んでみて下さい。