近藤威、文芸社
☆☆☆
主人公の安藤敬子が高校三年生から60歳になるまでを描いた物語です。
40年以上の時間を平均的な文庫本の厚さにギュッと圧縮しているので、どんどん場面展開していきます。注意しながら読まないと、
「あれ、敬子は今何歳?」
となります。
敬子の特徴は一言で言って、現実主義者です。高校生の時から自分のスペックを正確に把握し、夢見がちなことは考えません。
また、とても気が強いというのも特徴です。敬子は公立高校の教師になるのですが、赴任先の高校で、《鬼の安藤》という二つ名を生徒から送られています。この気の強さが災いして、敬子は生涯未婚となります。
本の中で一番長く扱っているのは、やはり教師としての敬子です。ここでも現実主義の敬子なのですが、それは何でも諦めるということではなく、今ある条件で何ができるかを真剣に考えるということです。なので、教師をされている方にはとくにお勧めします。
現実主義者なので、世の中の不条理なことについつい皮肉っぽいことをつぶやくのですが、それが名台詞になっていて、読者の心に響きます。
いろいろあるけど、自分の思いはわきに置いて現実に合わせてなんとかかんとかやっているみなさんの共感を呼ぶ本です。