伊坂幸太郎、東京創元社
☆☆☆
私は本を中盤まで読んで、「つまらない!」と思えば最後まで読むのを止めてしまいます。ですが、この本は「いつからおもしろくなるんだろう?」とズルズル読ませ、最後に「そうだったのか!」と思わせます。
物語は妻に浮気された男が怒るわけでもなく、
「なんだか家にいたくないな・・・、そうだ釣りに行こう」
と外出し、舟で海へ出て、遭難するところから始まります。
男は気を失い、目が覚めると見知らぬ土地で体を植物の蔓で縛り上げられた状態で横たわっていました。そして、彼の胸の上には人の言葉を喋る猫が乗っていました。この喋る猫が見聞きしたことを拘束された男に話してきかせる形で話しが進んでいきます。
「あぁ、ファンタジーか」
と思ったのですが、いくら読み進めても勇者も魔法使いも出てきません。登場人物はいたって平凡な人ばかりです。知恵も勇気も冒険もありません。
題名にある《夜の国》という国も出てきません。出てくるのは猫が住んでいた「僕たちの国」と「鉄の国」です。「僕たちの国」は「鉄の国」に戦争で負け、「鉄の国」の兵士が占領するために「僕たちの国」へ進駐してきます。そこで起こる「僕たちの国」の人々の混乱が物語の4分の3続き、そして、最後の4分の1で話しが急展開し、
「実は!」
と秘密が明かされていくのですが、そこにたどり着くまでが長い!混乱する「僕たちの国」の人々の描写とは別に、そこで暮らす猫と鼠の話し合いが随所に挿入されるのですが、これは最後まで読めば伏線だったことが分かると思います。
題名の《夜の国》というのは私の勝手な解釈ですが、小さな城塞都市(=僕たちの国)で暮らして、外界からの情報を遮断された生活を送る無知な人々を暗示しているのだと思います。この物語を乱暴にまとめれば、真実を知らない無知な人々は為政者にとって都合が良いということでしょうか。
そんな中で、心に残った言葉がありました。「僕たちの国」の国王が国をまとめるコツを言ったくだりです。
「外側に、危険で恐ろしい敵を(自分で)作る。そうした上で、堂々とこう言うんだ、『大丈夫だ。私が、おまえたちをその危険から守ってあげよう』とな。そうすれば、自分をみなが頼る。反抗する人間は減る。」
なんだか北朝鮮や中国の国家元首がやっていることとだぶりませんか?
猫が人間に語りかけるという形で物語が進んでいくので、難しい言い回しは一切ありませんが、真相が明らかになるまでが長いので、忍耐力がない人にはお勧めできません。