ディー・レディー、江國香織訳
小学館文庫
☆☆☆
猫の一生を猫の目線で描いた物語です。
猫のダルシーは優しくて聡明な女性である《あたしの人間》に子猫の時にもらわれます。
そこから、17年と4か月にわたる月日が書かれています。
猫が擬人化され、主人公になる小説はたくさんありますが、この本の特徴的なところは、ダルシーはあくまでも猫ということです。ですから、人間のことを批評したりはしません。
「猫は賢いのに、人間はなんてマヌケなのかしら」
みたいなことをダルシーは一言も言いません。ですから、飼い主のことは、ずっと《あたしの人間》と認識してます。ダルシーは《あたしの人間》が喜怒哀楽をしめしていることに気づきますが、なぜかは分かりません、というか知ろうともしません。
しかし、悲しいときには飼い主に寄り添い、うれしいときには一緒にはしゃいで、喜びを分かち合うことはできるのです。
ダルシーは、あくまでも猫です。甘えたいときには飼い主にそのことを要求しますが、一人でいたいときに体を触られるのは嫌いです。《あたしの人間》は一時、猫を多頭飼いするのですが、焼き餅を焼いて《あたしの人間》を遠ざけたりもします。
色々な事件が起こり、ダルシーと《あたしの人間》は少しずつ二人で一人の存在になっていきます。お互いなしにはいられなくなってしまうのです。ところが、本の題名にもあるように一生の終わりは《死》です。
ダルシーに老いと病気が訪れます。《あたしの人間》は必死に看護するのですが、残念ながら、ダルシーの永遠の別れも描かれています。ラストの数十ページは涙なしには読めません。
本の中には16点の挿絵が掲載されているのですが、とても素晴らしいです。読み終わったあとだと、挿絵のダルシーを見るだけで涙腺が緩みます。
現在、猫を飼っているみなさんはぜひとも読むべき本です。猫と暮らす素晴らしさが書いてある素敵な本です。