原宏一、光文社
☆☆☆
アマゾン川では、海水が高波を伴って逆流するポロロッカという現象が起こります。この物語では、ポロロッカが東京の多摩川で起こるという科学的に根拠のない噂が多摩川に隣接する地域で広まって起こる様々な人生を描いています。
本の中身は7つの短編に分かれていて、それぞれのお話に登場する主人公たちは職業、経済力、社会的地位が異なる人々です。それらの人々がポロロッカがきて、自分たちの家が津波に飲み込まれて生活の基盤を失うかもしれないとなったとき、どんな行動をとるかという筋立てになっています。
こんな風にあらすじだけ見ると喜劇のように思われるかもしれませんが、私は人情劇のように感じました。嘘だと分かっていて騙されたふりを続ける人や、この騒動をきっかけに新しい生活を始める人たちが登場するからです。
7つのお話に共通しているのは、主人公が現在の生活に経済的にだったり、精神的にだったり行き詰っているということです。そこに多摩川が津波を伴って逆流するかもしれないという噂がきっかけとなって、人生が回転するのです。
社会というものは決して理性的なものではなく、説明のつかない空気というようなものに支配されて思ってもみなかった方向へ動くことが頻繁にあります。だから私は、この本で扱われている多摩川大逆流の噂で右往左往する人たちを単純に「馬鹿な人たちだ」と切って捨てることはできません。