相戸結衣、宝島社
☆☆☆
仙台市に本社を構える中堅旅行会社に勤める香月南(25)を主人公にしたお仕事小説です。
南が働く《けやきラウンジ》は社長命令で作られた実験的部署です。本社から切り離されていて、社員の個性を最大限に発揮して仕事に取り組めるようになっています。
同じ部署で働く仲間は南を含めて5名です。それぞれに特技があり、違ったアプローチで旅行を企画して社に貢献しています。
南以外の同僚は、外国語を何か国語も話せるとか、自然科学に精通していてネイチャーガイドとして実績があるとか、分かりやすい特技なのですが、南自身はなんで自分がこの優秀なメンバーの一員に選ばれて一緒に働いているのか分からず、他の同僚と自分を比べて落ち込むこともあります。だけど、そんなときは上司の中原がすかさず、
「最高のおもてなしは笑顔です。あなたの笑顔は周りの人みんなを笑顔にします」
なんて励ましてくれるので、スグに立ち直って頑張ることができます。
作者が旅行会社について取材されているみたいで、これを読むと旅行会社がどんな業務を普段やっているかが分かります。私は旅行会社をパック旅行でしか利用したことがなかったけれど、他にも色んなことをしているんだな、と思いました。
私個人としては、理想的な南たちの職場を快く思わない本社の人間が、《けやきラウンジ》の独立性をおびやかそうとするお話が心に残りました。私は20年間役所で働きました。よく、硬直的な組織を【官僚組織】なんて揶揄しますが、南たちに敵対する男がまさにそれで、
『霞ヶ関にこういう人、いっぱいいたなぁ』
と思い出されたからです。
読んでいて、ちょっと残念に思ったのは、情景描写に力を入れすぎていて、読みずらかったことです。情景描写は読者に作品の舞台をイメージさせるために欠かせないものですが、小説では必要最低限におさめて読者の想像に任せてもいいのかなと思います。
笑顔と一生懸命がモットーの南が失敗と挫折を乗り越えて働くお話です。最後は丸く収まって、南もお客さんも落ち着くところに落ち着くので安心して読むことが出来る小説です。