うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

花や咲く咲く

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あさのあつこ実業之日本社
☆☆☆
太平洋戦争下で高校生活を送らなければならなかった少女たちの物語です。

 

【統制】と名の付くものが人間の集団に行われると、その集団の雰囲気は暗くなります。この物語の少女たちは、その中でも最悪の統制、【戦時統制】のもとで暮らしています。

 

『箸が転んでもおかしい年頃』

 

と言われる彼女たちが、往来で声を立てて笑うこともできないのです。

 

そんな不幸な時代に生きていても、美しいものは人の心を慰めてくれます。美しい布地を手に入れた4人の少女たちは大人たちには内緒でブラウスに仕立てます。そして、戦争が終わったら、そのブラウスを着て外を歩くことを夢見て、いくつもの苦難に耐えるのです。

 

私はこの本を読んで、人の集団に不幸が降りかかったときどうなるのかが書かれていて興味深いと思いました。

 

不幸は集団に所属する人に均等に降りかかるのではなく、強い者には少なく、弱い者にはたくさん降りかかるのです。

 

もっとも弱い立場にある少女たちが、学徒動員で縫製工場に連れて来られた時に、そこの責任者から最初に言われた言葉が印象的なので引用します。

 

「ミシンの取り扱いには、万全の注意を払いなさい。きみたち人間の替えはいくらでもいるが、ミシンは貴重です」

 

そして、もう一点。そんな統制下でも、彼女たちの笑顔を完全に奪うことはできなかったということの素晴らしさです。もちろん、大人たちの前では笑えないのですが、少女たちだけになるとたわいのない話題で笑いあうのです。

 

私は巨大官庁に勤めていたことがあります。そこでは、役割を終えて規模が縮小する部署もあります。規模が縮小する部署では、新人の補充はなくなり、転勤できる者から部署を去って行きます。そうすると、年寄りばかりの部署が出来上がるのですが、これが暗い職場になるのです。私はそんな職場で働いた経験があるので、若い人は【明るい】、【元気】というだけで組織に対して十分に貢献していると思うようになりました。

 

戦時下を過ごした普通の女子高生の暮らしが学べる良書だと思います。