☆☆☆
本の装丁がポップなので、分かりやすいユーモア小説かなと想像して読み始めました。しかし、予想に反して文学的な内容で、少なくとも笑いの要素はありませんでした。
池井戸花しす(28)が主人公です。花しすには大原則があって、それは、
【他人を傷つけないこと】
です。物語を通してこのことが貫かれています。
物語の流れと無関係に回想シーンが挿入されていて、注意して読まないと何歳の花しすが主人公なのか分からなくなります。
諍い、恋愛、突発的な事件など何も起こりませんが、【他人を傷つけない】を実践している花しすの日常はなかなか困難な日常に思えます。周りに気ばかり使って一日の終わりにはヘトヘトな人っているかと思うのですが、花しすはそんな生活を小学生のころから家族に対しても行っていて、ある意味立派な人です。
文学的な要素が強いので、人間の弱さや愚かさが描かれています。実際、人間って理性的、合理的には行動できないもので、長く生きるほどに後悔ばかり増えていくので、私は共感しながら読んでいました。
読んで元気になる、知識が身につく、といった本ではありません。生きていくのって大変だよね、とか、人生って上手くいかないよね、と思いながら読む本です。