藤井建司、祥伝社
☆☆☆
主人公はプロのロックギタリストを目指していたのだけれど、左手を大けがして断念した青年です。
傷心旅行に出かけて貯金が底をついたとき、たまたまたどり着いた街で暮らし始めます。
駅前は都市計画に従って作られた整然とした街並みなのに、中心街から少し離れたある区画だけゴーストタウンになっています。その区画を街の人たちは、
《ショートホープ・ヴィレッジ》
と呼んでいるのです。
主人公はお金がないので、ショートホープ・ヴィレッジにある一軒家で暮らし始めるのですが、次々と不思議な出会いや出来事に見舞われます。
それは、記憶にまつわるお話なのですが、面白いテーマに挑戦した小説だと思いました。
過去に成功体験した人は、今の自分と比較して惨めになることもあるでしょう。過去につらい体験をした人はそれが足かせになって行動を制約されることがあります。
主人公の周りでは、そんな記憶が消えたり、改ざんされたりするのです。
医療の分野でも、つらい経験により心に深い傷を負った人を救うために記憶の消去、改ざんの研究が大真面目に行われています。まだ、実用化されていない治療法ですが、そんなことができる不思議な土地があったら、あなたはどうしますか?
私は消去したい記憶がたくさんあるので、この街が実在したらぜひとも訪ねたいです。