白倉由美、角川書店
☆☆☆
物語を読んでいる最中も、読み終わったあとも、どこから現実で、どこから幻なのか分かりにくい不思議なお話です。
主人公は一人の青年です。青年は高校生のときに飛行機事故で両親を失い、天涯孤独になります。そんな青年の前に何の脈絡もなく、謎めいた四人が突然現れて関係を持ちはじめます。
◎天涯孤独になった直後現れ、青年の孤独を癒し、一年間だけ結婚生活を送ることになる三つ年上の美女。離婚後も関係は続き、青年の話し相手になる。物語が進むにつれて彼女の過去が明かされていくことになり、青年を驚かせる。
◇美女と離婚後に一人で暮らしていたアパートに不法侵入した【しっぽのある少女】。7つか8つに見える少女。一晩眠ると昨日の記憶が消えるため、過去を持たない。トマトやイチゴのような赤い食べ物しか食べれない。青年には【しっぽ】が見えるのだが、見えない人もいるみたい。体に大きな消えない傷があり、暴力を異常に恐れる。青年と短い間、同居することになる。
☆有名な画家であり、医師であり、富豪である男性老人。【しっぽのある少女】を取り戻すために青年の前に現れる。
△漫画家になった青年の編集担当の女性。美女や男性老人について何か知っているみたい。
これら四人のうち、三人は現れた時と同じように、何の前触れもなく謎だけ残して青年のもとを去ってしまい、美女だけが最後に残ります。
とにかく、十メートル先は見えない霧の中を歩かされているような不思議な物語です。本を最後まで読み終わっても、霧が晴れることはありません。本を読んで「ワクワク」、「痛快」、「号泣」、「ほっこり」したい人は手にするのをやめた方がよさそうです。