うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

はずれ者が進化をつくる

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稲垣栄洋、ちくまプリマー文庫

☆☆☆

中学受験の国語の試験で採用された件数が一番多い本というので読んでみました。

 

まず、これは児童書です。対象年齢は中学生から大学生くらいまでかな、と思いました。

 

始まりから終わりまで貫かれていることは、

 

《自然界では、多様であることに価値がある》

 

という思想です。

 

種が均一であった場合、大きな環境の変化が起こったときに全滅してしまうおそれがあるからです。

 

ただし、人間が作る組織、例えば学校や会社では構成するメンバーが均一である方が管理しやすくなるため、新規参入希望者を試験や面接でふるいにかけています。

 

作者は、多様性のある自然界と均一性がもとめられる人間社会を対比させながら多様性を持つことの重要性を説いていくのです。

 

進化を研究していると、繁栄した種というのは進化を止めてしまうことに気づきます。繁栄している種が変化するということは既得権を手放すことだからです。

 

そのため、進化は弱者の中から起こります。人間の祖先は森で暮らしていたのですが、競争に敗れて森を追い出され、仕方なく草原に出てきた者です。鋭い爪、強力な牙、早く走れる足などの武器を何も持たなかった人間がどのように現在の繁栄を築いたかはみなさん知っていると思います。これが進化です。

 

このような自然界の例を挙げながら、たくさんの人が挑戦している分野(東大生になる、プロ野球選手になるなど)で競争するよりも未開の領域へ進出して、そこで一番になることを目指す生き方もあるよ、と子供たちに教えています。

 

これを読んだ子供たちは、

 

「よし、私は誰も挑戦した人がいない分野でがんばってみよう!」

 

となるのでしょうが、52歳の私は少し考えさせられました。

 

というのも、進化と言うのは長い長い時間の中でいくつもの失敗を積み重ね、その中から選抜されてきた結果を現在の私たちが見ているわけです。永遠の命があれば何度でも失敗が許されますが、残念ながらそんなことはありません。人の一生では挑戦して失敗できる回数には限りがあります。

 

数万年の進化の歴史を研究してきた学者の稲垣さんがたどり着いた思想を、短い人の一生にそのまま当てはめるのはリスクが大きいんじゃないかなぁ、と思ったのです。

 

そして、皮肉な話だなと思ったことは、おそらく、この本を受験対策として読む小学生が目指す先は、多様性を重んじる世界ではなく、決められた答えに正確にたどり着く受験の世界です。正解以外の回答をする子供は有名私立中学校では必要とされません。

 

人間の作る社会は多数派が暮らしやすくなっています。残念ながら多様性は求められていないのです。ただし、たくさん人が産まれてくるとそれに上手く適応できない人が現れます。そんな人たちの存在価値を認めてあげる理由として、進化生物学を研究する稲垣さんのような高名な学者がこんな本を出版することに意味があると思いました。