ひかりをすくう

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橋本紡光文社文庫

☆☆☆

デザイン事務所でデザイナーとして働いていた智子が、過労からパニック障害になります。

 

治療に専念するために事務所を辞めて、恋人の哲ちゃんと都心から各駅停車で2時間くらいかかる郊外に引っ越します。そんな、都会と田舎の中間くらいの街で投薬治療を続けながら静養する姿を描いた物語です。

 

私が共感できたのは、引っ越し先を探すときに智子が、

 

『ど田舎はイヤ』

 

と意見を言った所です。この物語の本筋からは逸脱している部分ですが、ど田舎の現実を明確な言葉で論理的に指摘していて良かったです。

 

智子のように私もうつ病になって役所を自己都合退職したのですが、智子の再生の物語には共感しませんでした。

 

私は無職になったとたん社会とのつながりというか、人とのつながりがまったく無くなってしまったのですが、智子には同棲している哲ちゃんがいるんです。ココが決定的に違います。

 

この哲ちゃんが、料理と裁縫が得意で、底なしに優しい彼氏なんです。哲ちゃんがどれほど優秀なカウンセラーなのかはこの本を読んで確かめてください。

 

また、仕事を辞めたあともかつての仕事仲間が智子を気遣って連絡をくれたり、新しい街で出会いがあったりと、智子は孤独じゃありません。これが、仕事で精神を病んだ人には重要です。

 

《人くすり》なんて言って、精神科で出される薬なんかよりも、優しい人との交流は心の病に効くんですが、過労で倒れるまで働くような人は、それまで人生の全てを職場に捧げている人が多いので、倒れたあとで顔をあげて周りを見渡すと誰もいない荒野である場合が多いように思います。

 

智子のように倒れた現場に優秀なカウンセラーがいて、静養中に心温まる出会いが向こうから勝手にやって来るなんて幸運は現実にはなかなかないんじゃないかなぁ、と私は思ったしだいです。

 

私が文庫本の裏にある紹介文を読んで、闘病記として読み始めたのが間違いなんです。智子と哲ちゃんの恋愛小説として読めば良いのだと思います。仕事で精神を病んだ人が参考にする本なら、

 

ツレがうつになりまして。
細川貂々幻冬舎文庫

 

がお勧めです。