役所で20年勤めた間、色々な研修を受けさせてもらいました。そのほとんどは、半年もするとすっかり忘れてしまうようなことばかりなのですが、15年も前に受けたマスコミ論の授業は今でもはっきり覚えています。
講師はとある新聞社の記者でした。まぁ、ありきたりな講義ではなかったので今でも覚えている訳ですが、今になって思い返しても親切で言ってくれていたのか、はたまた単なる彼のガス抜きだったのか判然としません。
講義はこんな調子で始まりました。
『君たちの中の何人かは霞ヶ関で課長になる者もいるだろう。そのとき、僕らを怒らせるようなことはしない方がイイ。』
彼曰く、取材で霞ヶ関へ行くと役人たちが書類を裏返したり、パソコンの画面を閉じたり、コソコソするのが不愉快なんだそうです。
『僕がその気になれば、霞ヶ関の課長くらい辞職に追い込むのは訳がないんだ。誰だって頭の先から足のつま先まで、真っ白な人間なんていないだろう?』
彼がこだわる霞ヶ関の課長ですが、知らない人のために私の勝手な認識で、どれくらい偉いか説明すると、当選1回目の国会議員よりは日本の行政に与える影響はずっと大きいです。自分はそんな人の首でも、その気になれば獲れるぞと威張ってみたかったのでしょうか?
『国家権力は三権分立で三竦みの状態になっている。だが、我々マスコミは誰からも制約を受けない独立した第4の権力なんだ。』
と啖呵まできるしまつ。
「権力が独立してたらマズイじゃん!」と私なんぞは思ったのですが、講師の方はその辺り、ちっとも気にしてないようでした。定年まで無事に勤めたかったら、マスコミを敵に回さない方がイイよ、と親切に忠告してくれたのか、単に「俺たちをなめんなヨ」と脅しにきたのか、とにかく記憶に残った異色の講師でした。