北川恵海、メディアワークス文庫
☆☆☆
大学生だったとき、社会人になった先輩がうつ病になった噂を聞いて、
「そいつのメンタルが弱いからだろ。」
くらいの感想しか持たなかった青山隆(社会人一年目)は、自分が社会人になってスグに次のような歌を作詞して口ずさむようになります。
月曜日の朝は、死にたくなる。
火曜日の朝は、何も考えたくない。
水曜日の朝は、一番しんどい。
木曜日の朝は、少し楽になる。
金曜日の朝は、少し嬉しい。
土曜日の朝は、一番幸せ。
日曜日の朝は、少し幸せ。でも、明日を思うと一転、憂鬱。
そして、ついに無意識に線路に飛び込もうとしたとき、《ヤマモト》と名乗る男に身体を強い力で引き戻され、久しぶりの再会を祝うことを持ち掛けられるのです。
小学3年生のときに同級生だったと自称するヤマモトですが、隆は覚えていません。お互いの連絡先を交換しあい、交流を続ける中で、ヤマモトのおかげで失われていた生命力のようなものを回復していく隆ですが、ヤマモトが同級生ではないことがわかります。
なぜ、ヤマモトが赤の他人の自分にこんなに良くしてくれるのか気になった隆はネットでヤマモトについて検索すると、3年前に自殺したヤマモトの顔写真を見つけるのです。ヤマモトはいったい何者なのか・・・。
私が役所でパワハラ上司から毎日のように、
「なんでこんな簡単なことができないんだ?」
「お前、何年役人やってんだ!」
と叱責されていたとき、それまで私が勝手に仲が良いと思っていた同僚たちは私から離れて行きました。
『落ち目の人間とは付き合わないってことか。』
と傷ついたものですが、その点、この物語の主人公、隆は幸運でした。ピンチのときに味方になってくれる人が、タイミングよく現れるなんてことは滅多にないことだからです。
仕事が辛くて毎晩眠れず体調が最悪な方、この本を手に取ってヤマモトの話を聞いてみませんか?【逃げる】という選択肢も、この世知辛い世の中を渡っていくなかでは、ときには必要な選択肢だと思います。