津村記久子、文藝春秋
☆☆☆
主人公は中学三年生の山田ヒロシ。背は低い方で、帰宅部、成績は中の下くらい、何かに熱中している様子はなく、クラスでは目立たない平凡な男子です。そんなヒロシの中学生活最後の一年を物語にしています。
理由もなくイジメられる友だちがいたり、毒親に苦しんでいる友だちがいて、何とかしてやりたいと気をもんでいるのですが、中学生に出来ることは限られていてイライラしています。
そんなことをしている間にも時は流れ、中学生最大のイベントである高校受験が迫って来ます。せっかく、中学生活を通じて親交を深めた友だちと春になったらバラバラになってしまうことに感傷的になります。
こんな感じの物語で、明るい青春小説ではありません。主人公は目標を決めて努力するような生徒ではなく、題名の通り、現状に流されていくだけの無力な中学生です。扱うテーマもいじめや毒親なので、終始暗い印象があります。
しかし、誰もが華やかなゴールを切れるわけではないし、取り柄のない子もいるし、恵まれない家庭で育つ子もいるわけです。才能があって、世間からチヤホヤされる人はテレビや新聞が毎日取り上げているので、こういった物語の中くらいは平凡な中学生を主人公にして、彼らの存在確認をしてあげるのも大事だと思います。