加納朋子、集英社
☆☆☆
異色の部活小説です。親目線で公立中学校の吹奏楽部の活動を描いた小説です。
世の中というものは、とかく華やかな物にばかり目がいきがちですが、そんな華やかな物事には、裏側で数えきれない裏方の努力があって成立しているのです。そのことが、よ~く分かるお話になっています。
私はバイオリンを演奏しますが、オーケストラに1年以上在籍したことがないため、役員を務めるまでにはならなかったので、会場を取ったり、活動報告や公演要旨を作成し、関係者に送付する仕事がこんなに大変なものとは知りませんでした。
この本で知ったのですが、管楽器は維持費にお金がたくさん必要で、その費用を捻出する経済的な親の苦労なんかも初耳でした。管楽器に比べたらバイオリンの維持費なんてゼロみたいなものです。
ちょっと脱線しますが、クレヨンしんちゃんを見ていたら、しんちゃんパパにママが、
「トイレットペーパーが切れてたら補充してよね!いつも私がやってるじゃない。名前のない家事は全部私じゃ体がもたないワ!」
と怒ってました。吹奏楽部親の会はまさに《名前のない仕事》の連続なんです。いわゆる雑務ってやつなんですが、コンテストに集中したい子供たちをアシストするため、親が大車輪で働くわけです。
膨大な雑務をこなすだけでも大変なのに、親の会が一枚岩でなく、そのことからくる意見調整にもたくさんの知恵と労力を使います。人間が集まると、一人や二人、トラブルメーカーが必ずいるもんです。
この辺に興味を持たれましたらこの本を読んでください。
主人公が中学生の子供を語る部分が名文なので転載します。中学生をお持ちの親御さんたちは共感してもらえると思います。
『小学生なら、個人差も大きいが、親が付きっきりで持ち物をチェックする必要もあるかもしれない。しかし中学生にもなって、そんなことをされている子供がいたら少々問題だろう。が、当人に任せておいて安心かと言えば、全然そんなことはない。あっちもこっちも、足りないこと、抜けていることだらけだ。
中学生の中途半端さの、なんとやっかいなこと!
京子はまたしても、深いため息をつく。
小学生ほど幼くないけれど、どうにもまだまだ頼りない。できること、できないことを、自分自身でさえ把握できていない。なのに自尊心だけは、いっちょ前に育っていて、親の口出しを煙たがる。そのくせ失敗しては、親に泣きついてくる。』
私はとても面白いと思いました。おすすめします。