うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

よるのばけもの

f:id:asuniwanarou:20190501154139j:plain

住野よる双葉社
☆☆☆

ヒット作の【また、同じ夢を見ていた】、【君の膵臓をたべたい】とはぜんぜん違った雰囲気の作品です。

 

主人公は男子中学生で、夜になると化け物になってしまいます。目が8つあって、足が6本、体の大きさ、形を自由に変えられて、人間では不可能な跳躍や、速さで走ることができたり、背中に翼をはやして空を飛ぶこともできます。口から火炎放射したり、口の中は異次元空間とつながっていて、どんな大きさの物も飲み込めます。

 

こんな無敵な化け物になれる男子中学生ですが、昼間は平凡な中学生で、通っている中学校も平凡です。どのように平凡かと言うと、クラスの一体感を高めるために一人の女子生徒を標的にしたひどいイジメが行われています。

 

仲間外れを作って、大勢でイジメるのって団結を深めるために集団の中でよく行われますよね。

 

夜、化け物になってから、主人公はその能力を使って外の世界を徘徊していました。そんなときに真夜中の学校でイジメられている女生徒とばったり出会ってしまうのです。

 

昼間とはまったく異なる姿なのに、女生徒は化け物が主人公だと見破り、真夜中の学校で二人の交流が始まるのです。

 

まず、注意したいのですが、この本のイジメの表現はリアルです。ぼやかしたりしてないので、学生のころにイジメの被害者だった方はフラッシュバックを起こすかもしれません。また、主人公が無敵の化け物であるところからイジメっ子を成敗してハッピーエンドとなる話を期待される方には残念でしたと申し上げておきます。

 

マスコミ、とくにテレビでは美談が選択的に放送されますが、人間って美しいだけじゃありませんよね。醜い悪魔的な面も持っているのが人間だと思います。作者の住野さんは、この本一冊まるごと使って人間の醜悪さを表現しています。化け物になった主人公の姿がとても気味の悪いものであることが詳細に描かれているのですが、これは同級生たちの心のありようを形にしたものではないでしょうか。

 

集団が狂気で満たされたとき、その中で正気を保つことはとても困難なことです。かりに『これはおかしいんじゃないか?』と思っても集団の中で声を上げるのは危険さえともないます。そんな状況下で物語の最後にとった主人公の行動の意味を住野さんは読者に考えてもらいたいのかな、と私は思いました。