森沢明夫、双葉社
☆☆☆
さいしょに、この物語の題名に【謎だらけ】とあることから、ミステリー小説と思って手にする方がいると思われますが違います。作中で、名探偵が取り組まなければならないような事件は起こらないのであしからず。
失恋した人がどん底まで落ち込んで、新たなスタートのきっかけにするという趣旨で企画されたバスツアーをめぐる物語です。
ただでさえ、失恋した人限定のツアーなのに、今回のツアー直前に喧嘩別れしてしまったカップルである添乗員と心理カウンセラーが同乗する、とんでもなく重い雰囲気のツアーが始まります。
ツアー中、正体不明な外見のお客さんたちが、身の上話をすることによって、少しずつ謎が明らかになるのですが、それと反比例するようにバスの中には連帯感が生まれていきます。
そして、物語最大の謎は、勘のイイ読者ならば物語が始まってスグに気が付いてしまうものなのですが、主人公の添乗員だけが最後まで気が付きません。
最初は、自分のことで精一杯だったお客さんたちが、物語最大の謎を知ったことから、添乗員と心理カウンセラーの二人を仲直りさせるために団結します。
バスの中の誰もが、
「仲間のために力になりたい」
という優しい気持ちで満たされていくのです。
ハッピーエンドの心温まる物語です。