うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

君の話

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三秋縋、早川書房
☆☆☆
たいへん魅力的なアイデアだと思いました。

 

長く生きると過去の経験に良くも悪くも制約されるものですが、この本の世界では、記憶を改変または消去できる薬があって、それを服用すると、嫌な記憶を完全に忘却できたり、経験できなかった恵まれた過去を実際に体験したように記憶できるのです。

 

もともとは、アルツハイマー病の研究の中で生まれた技術でした。そして、はじめは酷い暴力を受けた人の心の傷を癒すために用いられたのが、しだいに敷居が低くなり、自分にとって心地よい記憶をデザインするという使われ方になりました。

 

この技術を使って、二十歳の若い男女が恋愛する様を描いています。

 

二人の共通点は、親に愛されなかったこと。そして、そのせいで人と付き合うのがとても下手になってしまったこと。

 

さて、こんな魅力的な世界を構築し、どんな物語が始まるのかと期待したのですが、なにせ人付き合いの苦手な二人しか話に登場しないので、長々と自分語りが続くのです。それも、少し理屈っぽくてクドイんです。

 

なにしろ、人の悪意ばかり見て育った二人なので、滅多なことでは人を信用しないから、二人の関係はなかなか進展しません。とてもじれったいのです。まぁ、それがイイと言う人もいるんだろうけど。

 

とまぁ、私としては5点満点で3点くらいの作品だったのですが、手軽な内服薬で記憶を自在に改変、消去できる世界はとても魅力的だったので、この世界でもう一度違った話を創作してもらいたいな、と思いました。