吉野万理子、新潮文庫
☆☆☆
対象年齢は、主人公たちと同じ中学生から高校生と感じました。
舞台になっている町は、東京から新幹線で2時間半、さらにそこから特急に乗り換えて1時間10分で着くことができる金原市という地方都市です。その街は海に面していて、人目につきにくい海岸に魔法使いが住んでいます。
魔法使いの外見は、銀髪の白人で、30前後に見える女性です。名前がないので【魔法使いさん】と呼ばれています。魔法使い、および彼女の家は20歳以上の人には見えません。カメラで写した子供がいますが、カメラには何も写っていませんでした。
魔法使いは質屋をやっているのですが、質に取るものは【想い出】です。【想い出】を魔法使いに話し、魔法使いがそれに値段をつけるのです。魔法使いが面白いと思えばたくさんお金をもらえ、つまらなければ質入れを断ることもあります。
質入れした【想い出】は、質入れした人の記憶から消去されてしまいます。【想い出】は、質入れした人が20歳になるまでにお金を持って取りにくれば返還されます。しかし、20歳になった日に魔法使いに関するすべての記憶が魔法で消去されてしまうため、それ以後は【想い出】を取り戻すことは不可能です。
ここまでが、基本設定です。さて、【想い出】というと楽しそうなイメージがありませんか?でも、この物語の興味深い所は、魔法使いは喜怒哀楽に関するあらゆる記憶を収集していて、辛い記憶も買ってくれているところです。
イジメを受けている少女が、その辛い記憶を魔法使いに質入れして、翌日、まっさらな気持ちで学校に通うなんてこともできるのです。
このことは、記憶について考えさせられます。記憶を自由に消去したり、改変したりできれば生きやすいと考えたことのある人って多いんじゃないでしょうか。
しかし、主人公の里華はちょっと違った考えをもっているようです。その考えを魔法使いにぶつけるのですが、魔法使いの答えは哲学者のようで、二人の会話はとても知的で面白いものになっています。
記憶を質入れすることができるなら、あなたはどうしますか?