手のひらの音符

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藤岡陽子、新潮文庫
☆☆☆
本の題名に《音符》とあるので、音楽を題材にした小説だと思って読み始めたのですが、まったく違いました。

 

主人公の水樹は、45歳独身、服飾デザイナーです。現在の職について16年間、仕事を愛して過ごしてきました。しかし、独創的なデザイン、国内の熟練工による丁寧な縫製にこだわって製造してきた水樹のブランドは、発展途上国の安い労働力を使って作られるファストファッションに押され、ついに服飾メーカーからの撤退を決めます。

 

貧しい家で育ち、色んなことを諦めて生きてきた水樹が努力の末にやっと手にした服飾デザイナーの仕事を失うことはとても辛いことでした。かと言って、バブル景気崩壊後の日本では、水樹が作りたい高価な洋服を買ってくれる人はいません。品質が良い物を作っても高価な物は売れない時代になったのです。

 

そんな状況になり、水樹はこれまでの人生を振り返るのです。不公平で、理不尽なことばかり降りかかった子供のころ、それでも戦友のように支え合いながら時間を過ごした友人たちのことが思い出されます。

 

そして、その中の戦友たちと連絡を取り、会いに行くことで水樹は新たな力を得ていくのですが、水樹がどんな再起の仕方を選ぶのか、ぜひ読んでみて下さい。物づくりに携わる方々は水樹の考えや、行動に共感すると思います。

 

この本を読んでいて、

 

【貧すれば鈍する】

 

と言うことわざが思い浮かびました。お金が無いということは、行動の選択肢を少なくします。世の中には働かなくとも一生贅沢をして生涯を終える人がいる一方で、体を壊すくらい働いても貧しい人がいます。不思議に思いますが、これからもこんな世の中が続くんだろうなとも思っています。