うつ病、無職の雑記帳

孤独です。しあわせになりたい。

同志少女よ、敵を撃て

逢坂冬馬、早川書房

☆☆☆

本屋大賞を受賞した本で、とても面白い本です。歴史小説か、戦争活劇かと問われれば、戦争活劇の要素が強いと思います。それでも、話の中で主人公が活躍した戦場が独ソ戦の中でどのような意味のある戦場だったのかという説明もきちんとしてあります。

 

私も最近になって知ったのですが、ソ連軍は多数の女性兵士を戦場に投入していて、この物語のように少女たちが銃を持って実際に戦場で戦っていたようです。

 

主人公のセラフィマはソ連の田舎町で暮らしていました。大学進学を間近にしていたのですが、外出から帰宅すると村がドイツ軍に襲われてました。村人は皆殺しにされ、セラフィマ自身もドイツ軍に捕まって強姦される直前に駆け付けたソ連軍によって救われます。

 

戦争孤児になったセラフィマをソ連軍が拾って、狙撃兵としての訓練を施します。十分な技術を身に着けたセラフィマは復讐のために戦場へ向かいます。セラフィマは、

 

スターリングラード→クルスク→ケーニヒスベルク

 

と転戦していきます。どの地名も独ソ戦の激戦地です。この土地で少女だけで構成された狙撃部隊が活躍します。一緒に訓練を受けた仲間が目の前で戦死し、セラフィマも敵を殺し、そうする間に兵隊になる前に持っていた人間らしさのようなものが失われて、命令に忠実な人殺しになっていきます。

 

私が面白いと思ったのは、独ソ戦の戦場が現在行われているウクライナ戦争の場所と重なることです。西欧の勢力圏とスラブ民族の勢力圏がぶつかる場所がこの辺りであるためだろうと私はかってに思っています。

 

たくさんの仲間を失い、セラフィマは生還するのですが、その帰途で、

 

「こんなにひどい目にあったんだから、戦争しようなんて二度と思わないだろう」

 

と呟くシーンがあります。それなのに21世紀になって同じような場所で戦争しているのがなんとも皮肉です。

 

この本の特徴的なところとして、戦後のセラフィマにもページをさいているところです。防衛戦争から帰還し、英雄としてあつかわれても良い彼女たちにソ連は冷たい態度をとります。《人を殺した女》として気味悪がられたのです。そのために戦後も彼女たちの人生は暗いものとなりました。世間というのものがいかに移り気で当てにならないかを示唆するもので、考えさせられました。この辺りはソ連も日本も変わりないようです。

 

とにかく、面白い本なので戦争活劇が好きな人なら読むことを強く勧めます。