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太平洋戦争が始まる少し前の日本を舞台にした小説です。
主人公は10歳の女の子の柳悦子、通称《悦ちゃん》です。
悦ちゃんはお転婆でおませな子。ちょっぴり口が悪いのはご愛嬌、歌が上手で、明るく人目を惹く存在です。
早くに母親を亡くして、のんびり屋の父親と暮らしていますが、裕福な家なので家政婦さんが一人常駐していて家の雑用は全てやってくれるので生活で困ることはありません。
しかし、そこに父親の再婚話が持ち上がったことから騒動が始まります。政略結婚の匂いがする大金持ちの美人令嬢(カオル)と、庶民の出ながら美人(鏡子)の女性との出会いが同時進行して話をややこしくしていきます。
悦ちゃんは鏡子さんが好きなので、鏡子を応援するのですが、父親が結婚することになるのはどちらの美女になるのでしょう?
とまぁ、こんなお話です。このお話の面白いところは、ストーリーよりも1936年当時の日本の様子が娯楽小説を通じて分かることです。学者が書く文章って睡眠薬よりも眠気を誘うと思いませんか?そんな本で戦争前の日本の様子を勉強しなくてもこれを読めば十分に分かります。
カオルと鏡子の生活レベルがものすごく違うのですが、戦前の日本は現在よりも経済格差がひどかったのです。戦争に負けた後、進駐してきた連合軍に
「このまま日本の経済格差を放置すると民主主義の定着に支障をきたす」
と判断されるほどで、その結果実行された政策が財閥解体や農地解放です。
また、カオルが26歳で《行き遅れ》と明記されていたり、鏡子は21歳で真剣に結婚を考えていることなど、結婚観が今とはまるで違います。
ユーモア小説を読みながら、1936年にタイムスリップできるお得な本です。