松崎有理、光文社文庫
☆☆☆
三年以内に権威ある学会誌に論文が掲載されない学者は大学をクビになる法律が施行された世の中を描いています。
私も大学四年生のときに理化学研究所で一年間、卒業研究をさせていただきましたが、
「この人、勉強ができなかったらとっくの昔に野垂れ死んでたな」
という人をたくさん見ました。そのときの経験から、
【馬鹿と天才は紙一重】
というのは本当だと思っています。
とかく、学者というのは知識欲が旺盛で、たくさんの知識をインプットするのですが、それを論文にして発表する、つまりアウトプットするのが苦手な人が多い印象を持ちました。
この物語は、そんな学者の特性と、もしもこんな法律があったら、という現実と空想を掛け合わせた物語になっています。
肩の凝らないコミカルな内容で、文章も読みやすいです。主人公のミクラ(20代前半と思われる)が、文章を書くことが苦手な学者に代わって論文を書きます。5話から構成されていて、5人の学者が登場します。どれも曲者ぞろいです。
また、1話ごとにマドンナが登場し、ミクラが論文執筆の合間に片想いをします。そして、論文が出来上がるころに、親しくなることなく失恋します。美女を見て勝手に妄想を膨らませ、様々なかたちで失恋するミクラがおかしいです。
この本、分類するならコメディだと思うのですが、「う~ん」と唸る箇所がありました。マドンナがミクラを占ってくれるシーンなのですが、ミクラが占いに対して否定的な意見を述べたときにマドンナが返した言葉です。以下にそのまま転載します。
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占いなんて信じちゃいない、だって検証不能だから。
そういう台詞を、占いがおわったあと彼女に投げていた。相手はとくに怒るふうでもなく、つぎのことを説明してくれた。
占いは、ひとをしあわせにするためのものです。
人生は無秩序です。偶然に支配されており、なんの咎もないのに大きな不幸が立て続けに起きることだってあります。そんなとき、できごとに対し秩序だった説明をつけるのが占いなのです。
先祖の霊が怒っているから。
里芋の花が咲いたから。
いたちが行く手を横切ったから。
なんでもいいんです。どんな説明であれ、理解し納得できればひとは安心します。じぶんの人生は規則性も因果関係もない、たんなる偶然のつみあげにすぎないのだと真正面から受け止めることは、人間にはできない。ひとはそこまで強くないのですから。
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53年間生きてきて、
「人生って、運の要素も強いなぁ」
と感じている私に刺さる箇所でした。