吉田篤弘、中公文庫
☆☆☆
路面電車が走る町に一人の青年が引っ越してきます。彼が主人公のオーリィ君です。大里と書いて「おおり」と読むのですが、彼の知人は親しみを込めて「オーリィ君」と呼びます。
引っ越して来たばかりのオーリィ君は仕事を辞めたばかりです。1960年代に作られた映画が大好きで、昭和レトロな映画館に頻繁に通っています。貯金はあまりなくて、
「このままだと家賃が払えなくなるなぁ」
なんてぼんやりと考えながら映画館で映画を見ています。
おおらかで楽天的なオーリィ君の雰囲気が様々な人を引きつけます。そういった人々との交流を描いた小説です。
とはいえ、引きつけられる人の中に若い女性はいないので、恋愛要素はゼロです。お婆さん二人、おじさん一人、小学生一人が主なサブキャラです。
恋愛要素はゼロなのですが、オーリィ君はある女性に片想いしています。それは60年代に活躍した女優さんです。実はオーリィ君は物語の中で女優さんと出会って親交を結びます。銀幕の中で女優さんは若い娘なのですが、50年経つとスグには分かりません。あるきっかけがあってオーリィ君は親交のあるお婆さんが銀幕の女優さんだと気づくのですが、そのときオーリィ君がどんな反応をするか興味がありませんか?
オーリィ君は周りの人たちの働きかけに身を任せて流されるだけなので、物語の中で特別なことは何も起こらない、いわゆる日常系小説です。今は活字文化が廃れ、映像が伴わないコンテンツは大衆から見向きもされませんが、活字でなければ成立しないこんな小説を読んでほしいのだけどなぁ、と思いながら読んでました。
忙しい毎日に疲れたら、こんなのんびりとした世界をオーリィ君を通して疑似体験してはどうでしょう。